現代のU.Sスティールチャレンジ Vol.2

Vol.1 までのお話

サンルイスポオビスポへの道中、何と後続車から追突され、途中で1時間近く時間を失うと言うトラブルに見舞われます。それでも午後2時過ぎには試合会場に到着し練習時間は確保できました。車は、左のサイドミラーを吹っ飛ばされただけで済みました。現地では練習レンジが用意されているので、そこで練習を開始。あの3強も当然のように練習を開始しています。この練習の間は、3人の様子を観察出来る貴重な時間です。スキを見ては彼らに話しかかる。笑 普段の練習方法や練習でのトータルタイムなどを聞いてみるのです。ここで嘘か本当か、彼ら3人は口を揃えて僕にこう言いました。

「練習で8ステージのトータルを計測したことはないねぇ…ローカルマッチやナショナルズ、ワールドで撃った時のタイムしか覚えていないよ。」

3人にバラバラに話を聞いてこう答えるわけですから、僕に嘘を言っているとも思えません。確かにエアガンとは違い、8ステージを計測するのは大変です。やる気のある練習パートナーが居て初めて8ステージ全てを組んで撃つ気になるでしょう。また彼らの練習レンジでの様子を見ていてもタイムを書いて、トータルタイムを気にしている様子は一切ありません。日本式に練習でのタイムを基準に戦おうとしていた僕とは全く違う方法で練習を行っているのです。

マックスが1人で練習している際に、彼のタイマーを回すことを引き受け、彼の射撃を分析します。そこで驚くべきことは、彼の初弾が想像以上に速いと言うこと。今まで彼を初めに3人に対しては、初弾ではこちらにアドバンテージがあると思っていたのですが、それは大きな誤解。彼らはプッシュすれば、ドロゥが速いと言われる日本人シューター以上のスピードで撃ちます。日本人は銃を抜くのが速いだけであり、初弾そのものは決して速いわけではないんですね。そして、僕の戦意を消失させたのは、彼らのタイム。2発くらい外しても僕のクリーンのランと比較してタイムが変わらないのです。これが意味することは、彼らがクリーンした際のタイムは尋常じゃないくらいに速いと言うことと、僕が5の4を決めない限りは、全く持って勝負にならないということです。

「絶対に5の4を決めなければ、まず勝てない‥‥。」

この事実をいきなり突き付けられ、茫然としました。

この時点で2015年の結果は見えていたようなものでした。試合当日は、ラウンドアバウトからスタート。試合開始の8時前に練習レンジに駆け込み、最終調整を行います。そこではターゲットに当てる感覚と「安全速度」をチェック。試合レンジへ向かいます。

試合が始まると、3強はお互いのプレッシャーで冷静に撃てないのか、クリーンのランがありません。2発、3発のメイクアップは当たり前でトータル5の2や3がイイところ。日本で理想とされる5の4で撃っているステージは1つでもあったか?と言うくらいです。この状況に僕も流されます。「安全速度」で撃っているにも関わらず、3強と同じくらいの数を外してしまう展開。これでは全く持って勝負になりません。ステージが進むごとにこれがエスカレートし、残り3ステージを前に気持ちを切り替える決意をします。外してもイイからベースタイムを上げる!この作戦に変えて撃ったところ、2つのステージは良くはないが、まぁ許容範囲でタイムが落ち着く。そして、最終ステージはアウターリミッツ。他のスクワッドは撃ち終わり、スーパースクワッドの周りにはギャラリーができる。昔からですが、僕はこう言う状況が大好きです。笑 

「いやーこの状況で外すのはカッコ悪い。『日本式』に撃つしかないな。」

そう心に決め、このステージのみは4の4の完全クリーン。安全速度で3回を撃ち、ラストランは3.8秒台で締めて満足。日本の試合であれば、間違いなくトップスコアになる内容でした。ところが、大失敗したB.Jは抑えたものの、マックス、K.Cのトータルタイムは僕の上を行くものでした。

上の画像はアウターリミッツのトップ3の詳細なスコアです。カッコ内は、発射弾数を示しています。

これを見ても分かるようにK.Cはクリーンのランはゼロ。各ランで2発以上のエクストラショットを撃っているにも関わらず、トップスコアを叩き出し、タイムは尋常じゃないスピードです。エアガンでもこのタイムで撃つのは中々難しいはず。2位のマックスも同じようなものです。それに対して対照的なのが、僕のスコア。完全クリーンにも関わらずほぼ1秒の差が付いています。

これが 「現代のスティールチャレンジ」 なのです。

2015年の8ステージで、3強以外がステージ別で3位以内に入ったのは、このアウターリミッツでの僕のスコアのみです。後は、3強のオープンかリミテッド、もしくはプロダクションのスコアが全ステージのトップ3を占めています。僕のアウターリミッツもB.Jが大失敗したことで3位に入っただけのラッキーです。

マック堺選手が日本で確立した最強の5の4を死守し、圧倒的な安定性で勝利を手繰り寄せると言う『勝利の方程式』は10年前の世界選手権では通用しましたが、現在では通用しなくなってしまいました。同じ日本でスティールチャレンジを学んできた僕としては、悔しい現実でした…。

2015年のシーズンが終わって僕は、色々と考え直しました。

「スティールチャレンジに関する今までの自分の考えや理論は、日本でしか通用しない。それをアメリカでやろうとしていたのは、大きな間違いだった。」

よくよく冷静になって考えればこんな事実に「8回」も失敗しないと気付かないのだから、バカ丸出しです。8回同じように日本式の戦略で勝てなかったのに、自分を変えようとしなかった愚かさが情けないです。3強を冷静に観察し、分析することがしっかりと出来ていなかったのです。

「自分を変える」

これが今年のテーマです。今年の残りのメインイベントは2つ。USPSAナショナルズ、スティールチャレンジ世界選手権では自分を変えて挑む。これが何よりも今の僕にとっての課題です。でも、自分を変えるというのは、想像以上に難しいことです。毎朝、コーヒーで目覚めをしていた人が明日からコーラで目覚めないと勝負に勝てないと言われるようなものでしょうか。習慣化した自分の癖や考え、理論を変えることは並大抵ではありません。しかし、それをしなければ勝てないことは明確にリザルトが示しているのです。

では、闇雲に速く撃つことが正解なのか?単純に限界速度で撃てば良いのか?

そうではありません。

数年前にマックスが75秒の壁を破った時に僕は彼に聞いたことがあります。

「聞きたいんですけど、今のあなたのタイムは10年前と比較して尋常じゃないくらいに速くなっているけど、どうしてこのレベルに到達することが出来たんですか?」

「いやーそれはいい質問だね。正直、ハッキリとは分からない。銃やホルスターと言った道具に差はない。ただ、言えるのはK.Cの存在だ。彼と練習していると決して安心出来ないんだ。やった!どうだ?!って思うようなタイムで撃ったら、アイツはそれをいつも超えてくるんだよ。笑 そうすると、悔しくてそれを追い越そうと僕も自分をプッシュした。その結果が今のハイレベルな戦いだと思っているんだ。」

どのようなスポーツでもライバルは常に自分の技術を向上させます。彼らに何を目指して撃っているか?と聞くと、

「ターゲットに当てることを最優先と考えている。ミスはしたくない。」

そう答えます。ただし、実際にはリザルトを見ても分かるように彼らは5の4では撃っていません。つまり、彼らは単純に速く撃っているのではなく、究極に追い込まれた状況で戦っていることで、外しても速い尋常ではないスピード領域で勝負を展開してしまっていると言えるでしょう。本心では5の4を決めたい。だけど、ライバルたちに追いつこうと無我夢中で撃っている結果として、外しても速いタイムで上がってしまっているのです。これから見えてくることは、今のスティールチャレンジに「安全速度」なんて言葉はないのです。「安全速度」で撃って勝てるような世界ではなくなってしまったと言えるでしょうか。

「シューティングスピードを下げる=アキュラシーが上がる」

この考えは決して間違ってはいません。ただし、絶対に外さない保証はありません。ビアンキのプレートがそうですよね?スピードが速くなくても外す時は外す。

例えば、昨年の本番で最初のステージだったラウンドアバウト。僕は9秒切りを1つのラインとして撃っていました。しかし、その気になれば、いつでも練習では1つのランでの2秒切りは出来ていましたし、5の4を決めようと思えば、2.1秒前後で並べることは技術的にそこまで大変ではありませんでした。にも拘わらず、本番ではプレッシャーを想定し、やや遅い2.3秒前後で撃とうとしていたわけです。速度を落としているから外さないと思ったら、大間違い。3強を初めに世界レベルのシューターたちが見ている前では、2.1秒で撃つ場合のクリーン率と2.3秒で撃つ際のクリーン率に差は出ないのです。これが一番のポイントでしょう。勿論、だからと言って、マシンガンのように乱射するわけには行きません。笑 いきなり1.8秒台を狙うのはこれまた愚の骨頂と言えます。この辺りが説明の難しいところですね。