現代のU.Sスティールチャレンジ Vol.3

Vol.1 のお話
Vol.2 までのお話

「シューティングスピードを落としてアキュラシーを上げる。」

このセオリーは今でも間違いではありません。やはり速く撃つということは、言葉を悪く言えば何かをテキトーにするとも言えます。ターゲットの中心にダットやサイトが乗っていなくてもトリガーを引く、トリガーを雑に引く、グリッピングがいい加減になるくらいにドロゥを速くする。とは言え、高いレベルのシューターたちは、これらの動作を練習により安定して行う技術を持っています。しかし、それでもミスをする時はするのです。これはプレッシャーが原因と言えます。間違いのない正しい技術を持っているにも関わらず、それが試合本番で発揮できないのは、プレッシャーをコントロールする技術が未熟なのです。言葉を換えれば、メンタルが弱いとも言えるでしょう。3強を見てきて僕は、彼らが見つけ出したこのプレッシャーに対応する答えが、今の彼らの試合での撃ち方にあるように感じました。外してはいけない!5の4を守れ!と言うセオリーに対する考えを甘くすると言うところでしょうか。

人間は「~してはダメだ!」と言う命令や指令に弱いのです。小さい子に溢れる寸前まで水の入ったコップを持たせて歩かせ、「溢したら駄目よ!」と注意した瞬間に転んだり、水を溢す場面が容易に想像できますが、正にあれです。スティールチャレンジでも同じことが言えます。絶対にミスするなと言う考えや気持ちはプレッシャーを増大させるだけなのです。皆さんもビックマッチで経験があると思うのですが、あのフワフワと宙に浮いているような意味の分からない感覚。銃を握っている力がどれくらいなのかさえも自分で分からないような感覚。優勝の掛かった場面や最初のステージで1つのランで+のペナルティを食らった時など、このような感覚に襲われないでしょうか?絶対にこのランを残すな!そう自分に言い聞かせた瞬間、そのランで大量に外す、あるいはまたも+3秒を叩いてしまう‥‥。これは僕が昨年の本番や大きな舞台でやりがちだったミスです。

3強たちが見つけ出したこれらのプレッシャーに対応する1つの答えは、本来自分が持っているスピードで撃てると自分を信じて疑わず、外してもすぐに撃ち直せば取り戻せると言う考えを持って勝負に臨むと言うことだと僕は思っています。

少し変わった例えをするならば、ビアンキカップです。

もし、ビアンキのルールが発射弾数無制限だったらどうでしょう?

満点は同じ1920点。制限時間も同じ。ただし、撃ち直しが出来る。プレートでもムーバーでも制限時間内(ターゲットが見えている内)であれば、外しても撃ち直し可能。

仮にもこんなルールになった瞬間、ビアンキを撃つ時のプレッシャーは激減し、競技自体を別のモノに変えてしまうでしょう。

これは、ビアンキカップにおいてシューターたちが競っている技術が「射撃技術」そのものと言うよりは、「1発もミス出来ないプレッシャーと戦う技術」を競っているからです。「射撃技術」そのものを競う試合としては、USPSA/IPSCやスティールチャレンジの方が圧倒的に上なのです。だからこそ、「射撃技術の追求」をしなくても「プレッシャーと戦う技術」を追求することで勝てる見込みがあることから、練習時間を取れないシューターや悪く聞こえちゃいますが、射撃技術がやや低いシューターでもクリーンの可能性を信じて参加するのです。

これがビアンキカップの面白さと言えますし、この面白さを楽しめる人は少ないのです。プレッシャーと戦うのは多くの人が苦手としますからね。何で恥をかく為に試合に出るんだ!と言う人もいるくらいです。

ちょっと話が逸れたような感じですが、スティールチャレンジに話を戻せば、5の4を決めなければダメだ、外してはダメだと言う日本式のセオリーや考えに拘りすぎると、プレッシャーが増大するだけだと言うことですね。

つまり、

「多くの日本人シューターは、スティールチャレンジを撃つ時に、クリーンで5の4を決めろ!と勝手にビアンキのように自分で弾数制限を付けて自身に余計なプレッシャーをかけているのではないか?」

と言うことです。

プレッシャーを乗り越える為に「安全速度」で撃っているから大丈夫、「余裕」があるからと自分に言い聞かせて「5の4」を目指すのではなく、それよりも自分のスピードを他人に見せつけるような強気の姿勢でクリーンのランをいくつ撃てるか?を競う気持ちくらいの方がプレッシャーに対して有効に戦えるのだろうと3強を見て僕は考えています。

「闇雲に速く、限界速度で撃つな。でも不必要に速度を落として撃つ必要はない。自分が持っているスピードを封じ込めないで試合を撃て。」

その考えをもって僕は3月の全米選手権に挑戦を行いました。5の4のことは余り意識をしないでエクストラショットを撃とうが、途中のランで失敗しようが、次のランで速度を落とす等、今まで日本の試合で培った考えを捨てるように努力しました。その結果は86.54秒。今までと比較して大きな成長はないのですが、実はナショナルズで3位に入賞した時よりも僅かに良いタイムで終了。そして、何よりも僕にとって大きな収穫はラウンドアバウト(RA)とペンデュラム(PEN)。

詳細はYou Tubeの映像を見て頂ければわかるのですが、RAでは、3回目で奥にメイクアップを撃っています。4回目はやや日本的に落として撃ちクリーン。ラストランは、過去の日本のセオリーに従えば「安全速度」で撃つべきだったはずです。しかし、ココで僕は自分に自分を変えろと言い聞かせ、2秒切りをするスピードで撃つようにスロットを切り替えました。結果、RAの1つのランでは自己最速となる1.84秒を記録。今までにない感覚でした。当然ステージタイムはビックマッチでの自己ベストタイム。

あとは、これも自分の中では自信につながったペンデュラム。4回目でトータル9発も撃って3.81秒。普通ならラストランは絶対に守りたいところです。でも僕はペースを変えずに最後も撃ち、結果は1発のメイクアップ。それでも2秒台にタイムを抑え、トータルタイムは5の3にも関わらずPENのステージタイムとしては自己ベスト。

「今までの試合では、安全速度で撃って5の4やクリーンを目指して、失敗してその結果が86秒台。」

「今年3月の試合では、自分のベストスピードを撃つことを一番に『安全速度』と言う考えや5の4と言うセオリーを捨てて86秒台。」

全米選手権を終えて分かったのは、今までの自分にとって成功の定義だった『5の4』や『安全速度でクリーン』を変える必要があると言うこと。自分の持っているスピードを殺さずに撃ち、例えそれが、5の3や2でもだとタイムが良いのであればそれを『成功』と捉えることが出来るように意識するのです。ターゲットから外しているので、悔しい気持ちはありますが、気分が悪いと言うことはありません。そして、5の3や2と言うことから、

「まだまだタイムが伸びる可能性がある。」

と前向きにポジティブになれます。

これが安全速度で5の4を目指しての試合内容だった場合は、どうだったか?

「何で『安全速度』なのに外したんだ!やはり技術がまだまだ低いのか?」

と前向きどころか、「悔しい」を通り越して、自己嫌悪で最悪の気分に浸ることになります…。

ココまでが僕が考えてきたことです。

先週は4ヵ月ぶりにローカルマッチで8ステージのスティールチャレンジを撃ってきました。結果は81秒台。ローカルマッチで練習ゼロ。しかも新しいコンプになった銃で臨んだタイムとしては、十分に満足できるものです。何よりも自分を変えるという課題をクリア出来たことが収穫です。8ステージの内、5の4はショーダウンのみ。勿論、5の4が達成できれば嬉しいことに違いはないのですが、上記でも述べたように5の4が1つにも関わらず、このタイムだとまだまだ伸びる要素があると感じることが出来るのです。ラウンドアバウトも5の3。しかし、その3回は2秒切り。過去に撃った81秒と先週の81秒は内容が全く違うのです。

今年のJSCのリザルトを見て感じたことは、良くも悪くも例年と一緒ということです。絶対無敵であり、日本最強のマック堺選手に誰も勝てる状況ではないですね。正直、2位以下の選手のレベルに差があるようには感じませんでした。(エラそうに聞こえたら、ごめんなさい…)正にアメリカの3強に誰も勝てない状況と同じです。無敵のマック堺選手と同レベルのライバルがいない以上、日本のスティールチャレンジはこれ以上のレベルに行くことはないでしょう。それはマック堺選手がこれ以上の技術追及を行う必要がないくらいに高いレベルに一人で行ってしまったからです。長年彼に挑戦してきている人たちも諦めてしまったのでしょうか。

もし、日本でマック堺選手に本気で勝ちたいと思うのであれば、何かを変えなければ同じことを永遠に繰り返すことになります。

これは優勝を目指すレベルにいないシューターでも同じことです。自分の目指すタイムがあると思いますが、それがずっと達成できないのであれば、何かを変えなければいけないはずです。それが何かは各自が答えを探さなければなりません。

「仕事が忙しい、時間がない、お金がない。」

各自で色々な事情があるとは思いますが、それでも考えることはいつでも出来るはずです。自分に足りない部分を補う方法を考え続けることが非常に大事だと言うことを僕は島田選手に学び、最近は野球の野村監督の著書から学びました。

事実、島田選手は堺選手を抑えてJSCでも優勝を果たしていますし、アンリミテッドでも2年連続堺選手をビートしました。最強の天才に勝つ為には、考えて勝つ方法を見出すしかないと言いますが、彼はそれを実行していたと思います。

もしかすると、これからも自分を変えずに自分の守りのシューティングに徹し、3強のミスを待って挑戦を続ければ10年くらいの間に1回くらいはベスト3に入るかもしれません。しかし、それでは向上心を持って取り組んでいるとは言えません。僕はアメリカで8回失敗してきました。バカ丸出しでほぼ同じ失敗を8回しました。でも今年は結果がどうなろうと自分を変えたと納得できるように撃ちたいと考えています。少なくとも同じ失敗はしたくないと強く思っています。

今も昔も射撃に関係なく、僕はプライベートでも何でも考え過ぎだと言われています。ビックマッチでは、どうやって無心で撃てるんだろう?と考えるのがここ数年でした。特にアメリカの若いシューターや同い年で天才の1人であり、同じレンジで練習するIPSC世界チャンピオンのニルス・ジョナサンを見ていると、そう言ったことを考えられずにはいられませんでした。彼らのような人間を見てしまうと、自分が才能の無い凡人と言うことが痛いほど分かります。

現在、日本在住で実銃の競技へ挑戦を続けているシューター達は、最近の日本では、アメリカの試合に出よう!と憧れたり、それを実現しようと思う人が少なくなってしまったと感じてしまうようです。何か寂しいですね。JSCから20人でアメリカに挑戦した時代がありましたが、そのベテランの皆様が今でも日本のシューティング界を牽引しています。素晴らしいことだと思います。その当時、そのレジェンドの皆様は全員が20代。若いこともあり、お金と時間を趣味掛けることが出来たことで、多くの人がアメリカに挑戦されたのでしょうか。

それが今は25年以上経って、家庭や仕事の事情からアメリカに挑戦する状況ではなくなったり、気持ちやパワーが無くなってしまったのかもしれません。仕方のないことだと思います。そして、今の若い子たちが多少は増えているようですが、以前ほどに海外に挑戦する人たちがいなくなったことで、そのような人達に憧れたり、身近に情報を得られなくなった結果、今の日本では若い人もベテランも海外でシューティングへ行こうと言う考えなくすらなってしまったのだと思います。自分には無理だ、無関係だと感じてしまうのかもしれません。

実銃の試合に挑戦することが偉いのではありません。日本のエアソフトガンシューティングは、射撃で食べているアメリカのプロに認めてもらえるような世界に通用する技術を身に付けることができるのです。何よりJSC等の大きな試合に向けて日々練習をしたり、向上心を持ってそれに取り組む皆さんは、紛れもなくアスリートと言えるはずです。

エアガンだけに留まらず、海外に繋がる試合が減ってしまうのも寂しいことですし、日本のシューティングで育った僕はそれを特に感じてしまいます。

そう言ったことから今回は、日本で最も人気の高いスピードシューティング競技であるアメリカのスティールチャレンジについて現在のお話を書きました。少しでも何かの参考になれば幸いです。