
2016年11月8日はアメリカにとっても日本にとっても重要な1日になりました。日本でも盛んに報道されていたアメリカ大統領選挙が僕の眼にはどう写ったのか…今回は、いつもとは少し趣向を変えて、このホットな話題を保守色の強いアリゾナ州からお伝えしたいと思います。
選挙前日に、友人がガンショップへ行くと言うので、僕も同行することに。そこで僕は友人がARのロアー・レシーバーを購入するのを横目に見ていた。(AR系の場合、ロアーのシリアルナンバーが銃として登録される為)これは、銃規制を推進派の民主党代表のヒラリー・クリントンが勝った場合に備えてのことだ。クリントンがアメリカの世論調査では、圧倒的に有利と言われた今回の選挙、日本でもクリントンが勝つことが大前提としてどのメディアも報道を行っていた。暴言、差別発言を繰り返すヒラリー・クリントンの対抗馬である共和党代表のドナルド・トランプ。映画バック・トゥ・ザ・フューチャーでの悪役のビフのモデルと言われる人物だ。彼のような人間がアメリカ大統領になる何てとんでもない…これが日本、世界が感じていたことだ。僕もトランプがとてもマトモとは思えなかったし、発言、キャラクターを見てもこんな人が共和党の代表になってしまうのか…と唖然とした。しかし、クリントンとトランプ、どちらに勝って欲しいか…?と言うことになれば、銃器業界に関わる者としては、銃規制に反対の共和党代表のトランプに勝ってもらわないとこの先の生活がどうなるか分かったもんじゃない…が本音。これは僕だけの気持ちだけではなく、僕のシューター仲間達ほぼ全員が同じ気持ちだった。「トランプはクソ野郎だ…だが、あの女(クリントン)に比べたら、マシと考えるしかないだろ…。」これが友人の多くが呟いたことだ。僕の周りにいる人達は、白人が中心だ。それも保守の人たちが圧倒的に多い。皆さんもご存じとは思うが、アメリカで銃好き、射撃好きの人達は、ほぼ全員が共和党支持者だ。よく言えば、古き良き保守の考えを持った人達、悪く言えば、古臭い考えを持った人達と言えるかもしれない。射撃、銃に関わる人たちは、そう言うグループだ。そんなグループのど真ん中に日本人の僕が居るのは一般的に見ても非常に珍しいことだろう。僕は普段、現地在住で射撃、銃とは一切関係ない普通の日本人コミュニティとの関わりはそこまで強くない。しかし、それでも彼らと会う機会はあるし、世間話をすることはある。彼らの話を聞くとやはりこんな声が聞こえてくる。「ヒラリーが勝たないとやっぱダメだよねぇ…トランプ何て考えられない。あり得ないでしょ!」これがアリゾナ在住の日本人、そしてアメリカに住む大半の日本人の意見だったはずだ。彼らはヒラリーの支持者が多いリベラルの都市であるカリフォルニア、ニューヨークに多くが住んでいるのだから当然だ。そして、彼らが現地から発信する情報が日本に入っていることも忘れてはならない。つまり、日本に入ってくるアメリカ在住の日本人が発信する情報は、リベラルの都市でリベラルな考えを持ったアメリカ人に囲まれた人たちが見て、感じているものだと言うことだ。在米の日本人は各自でアメリカに住む理由は色々あるとは思うが、普通の仕事や「日本の文化」が関係した仕事であれば、その職場に集まるアメリカ人も外国人である「日本人」や日本文化に関わりを持つタイプなのだからリベラルな人たちが多いのには納得がいくはずだ。
逆に僕が今回ここで書いているストーリーは、保守のコンサバティブな考えを持ったアメリカ人に囲まれた日本人が書いている正反対の情報と言うことになる。日本にはこの様な情報が伝わらなかったことが今回の偏ったメディアの報道に繋がり、問題の1つだと感じ、それがこの記事を書くに至った理由でもある。僕の周りにいるコンサバティブな考えを持つアメリカ人が「外国人」である僕と関わりを持つのは、僕には彼らと同じ共通の趣味・価値観である射撃、銃と言うものがあるからだ。銃、射撃の世界に関わってアメリカで生活をすると言うことは、普通の日本人が見ることのない保守のアメリカを見ることが出来ると言うことなのだ。
共和党トランプの勝利
当初は誰もがトランプが敗北し、クリントンが勝つと思っていた。僕もメディアの報道を見て、トランプは厳しいんだろうな…と思ってはいた。だが、世間が言うほどにクリントンが圧勝するのだろうか…?と言う疑問がいつも頭にはあった。トランプは、政治に全く関わって来なった素人。彼が共和党の代表になり、クリントンと対決するまでになるなど誰も想像していなかったことだ。暴言、失言を繰り返してもココまで這い上がってくる姿は、常に人々の予想を覆してきた。また僕が周りのアメリカ人に話を聞いて感じていたのは、シューターや銃器業界に関わっていない人であっても8年続いているリベラルの民主党政権に嫌気が差している雰囲気だ。ココで面白いデーターがある。戦後のアメリカの歴史で、同じ政党が3期連続で指揮を執ったことは1度しかない。それもその政党は保守である共和党だ。3期連続と言うのは、1期が4年なので12年間となる。これが示していることは、12年間同じ方針の政策が続くことが如何に難しいか、と言うことだ。その過去のデーターを見ても、クリントンが勝つと、民主党にとっては、初の3期連続の政権になることから、僕は彼女が勝つのは簡単ではないはず…と思っていたのだ。そして、選挙1週間前のFBIがクリントンのメール問題に関しての捜査を再開したニュースの影響はトランプに追風になった。周りのアメリカ人たちは、トランプが勝つかもしれないと希望を持ち始めた。実は、選挙当日はレンジでローカルマッチを撃っていたが、誰もがこう言った。
「トランプが勝つだろう。アリゾナは当然そうあるべきだし、クリントンが簡単に勝つとは思えない。」
そして、結果は皆さんもご存じの通り。ドナルド・トランプが選挙に勝ったのだ。僕は当日、日本とアメリカのメディアを同時に利用して、選挙を見守った。ココで露骨だったことは、日本メディアはトランプ優勢の報道が何時間も遅れて報道され、メディアによっては大接戦!クリントンが優勢か?などの嘘に近い報道の方が目立ったことだ。これにはビックリした。アメリカでは、トランプ優勢と言っているのに日本では、それが報道されないのだ。これは、トランプ優勢の情報がモロに株価や円レートに影響を及ぼすことが考慮されてのことかと思ったが、それにしても偏った報道には疑問を感じた。実は、アメリカでもCNNなど民主党寄りのメディアは、同じような対応でありトランプ優勢の事実を報道したくない、受け入れたくない‥と言う空気が漂っていた。リアルタイムの状況を正確に伝えていたのは、やや保守的なメディアのFOXニュースだった。選挙が終わったにも関わらず、一部のメディアは、票を再集計するべきだ、大接戦でクリントンが勝利している可能性が僅かにある…と言っている所も未だにあるが、実際には大接戦とは言えず、終始トランプがリードしていた。思った以上にトランプが強く、思ったよりクリントンの人気が無かったのだ。トランプの政策、人柄に国民が惹かれて彼は勝ったのではない。8年間続いた民主党の政策に保守色の強い白人を中心に皆が嫌気を感じていた結果がこれだっただけだ。
トランプの暴言の裏にあることを考える
トランプの暴言の1つに「イスラム教徒は入国禁止にする!」と言うのがある。今のインターナショナルな時代、価値観の多様が認められる時代に、こんなことが簡単に出来る訳はないし、飛んでもない話だ。だが、この発言の裏にあるのは、カリフォルニア州で発生したイスラム教の移民によるテロだ。全てのイスラム教徒がテロリストのはずがない。僕の友人にだってイスラム教のトップシューターがいるくらいだ。でも、どこの社会、世界であってもマイノリティである数の少ない集団の発言力や権力は弱いし、差別を受けてしまう。これは僕自身も日本での小さい時の経験から身に染みて分かっている辛い現実だ。と言うのも、日本で銃、射撃が好きで趣味、仕事にしている人たちこそ、このマイノリティに違いないからだ。例えば、もしエアガンによる悪質な犯罪、暴力事件が増え、これが社会的に問題視されれば、トイガンは全面所持禁止と言う法律が出来てしまうかもしれない。実際に10年前にその様な事件を踏まえて、ある一定の威力以上のエアガンは所持が禁止されたわけだが、それをもっと極端にした例え話だ。社会一般的にその様な法律が悪影響を与えるグループが少ない、小さいと判断されてしまえば、そう言った人たちは犠牲にされてしまう…。僕は、小学生の時に銃が好きだと周りに知られれば、学校の先生からは問題児扱いされるし、周りからは将来は新聞に犯罪者として載るんじゃねーの?笑 と揶揄われたものだ。苦笑
こう言ったことは、人間社会の仕方がないところなのだが、リベラルである民主党はマイノリティの存在を重要視して、発言を認めたり、積極的に移民を受け入れる政策を取り、彼らの支持を得てきた。その結果、移民が最も多いカリフォルニアなどは、価値観が多様に存在するようになった。だが、どうしても価値観が違う者、考えの違う者同士が一緒に存在すれば、意見の衝突や喧嘩が増えてしまうのは、日常生活レベルで考えても明確だ。価値観が違う男女が結婚すれば上手くいかないし、意見の違う人とは中々友人にはなれない。僕は日本人としてアメリカに住んでいる。ココでも僕はマイノリティだ。そこで大切にしている1つの考えは、「郷に入っては郷に従え」だ。英語では、”When in Rome do as the Romans do.” 自分自身がマイノリティ、そして外から来た人間であることを認め、そこで多数派のマジョリティの人間たちに合わせて行くのは仕方がないし、ある面では当然だと考えているが、僕のような考えを持って異国に住もうとする外国人は意外に少ない。逆に自分たちの人種、同志を増やしていこうとする人が多い。こう言う人たちには、マジョリティ(白人)は不安を感じてしまうものだ。トランプの暴言は、単なる暴言ではなかったのだ。自分達と違う価値観、考えのマイノリティ(移民)数が増えていき、彼ら中心の世界を作って行こうとする民主党の政策に不満と怒りを感じていた保守の人たちとマジョリティは、あの暴言に本音を代弁されているように感じたのではないだろうか。保守の白人のおじさんたちが仲間内だけで、あるいはお酒の席で酔っぱらって言うような「愚痴」、今の時代、大きな声で胸を張って言えないような彼らの「本音」をトランプは、公共の場で言ってしまったのだ。トランプが本当の所、どのような意図で様々な暴言や差別と思われる発言を繰り返したのかは、分からない。だが、これが今回の彼の勝利に繋がったのは事実だろう。
さて、これがコンペティティブ・シューターである僕が見て感じたアメリカの大統領選挙だ。僕自身、周りの影響もありコンサバティブな考えを持っていることを否定しないが、先に述べたように同じような政策はずっとは続かない。8年間続いたリベラルの政治に今は終止符が打たれる時だったのだ。次の4年間、あるいは8年間は、保守的な政治が続くだろうが、それがずっと続くとも思えない。時が来れば、またリベラルな政治になっても全く不思議はないのだ。